第12回【経営者コラム】日本人ならでは。お歳暮・お中元など、贈答の感覚から、デジタル時代の2つのDM (ダイレクトマーケティング&ダイレクトメール)を考える。
デジタルメディアが登場し、二十数年あまり。
ダイレクトマーケティングのスタイルも様変わりし、
お客様とのコミュニケーションがデジタルに偏りがちになっていました。
しかし、さらにデジタル化が進む今、
デジタルオンリーのコミュケーションは「お客様のこころに響きづらい」と言う声も上がり、
“紙メディア”の価値が見直されています。
そこで今回は、贈答を大切にする日本人の感覚で「デジタル時代のお客様の心をつかむ」。
そんな視点で、『DM(ダイレクトマーケティング)のあり方』を『ダイレクトメール』を中心とした観点から、考えて行きます。
目次
そもそも大前提の2つの『DM』
「ダイレクトマーケティング」と「ダイレクトメール」とは?
DMには、複数の意味合いがあり混同してしまうことがありますが、大きくは下の3つを意味しています。
1)「ダイレクトマーケティング」のDM
企業がダイレクトにお客様に働きかけ、
双方向のコミュニケーションを行うマーケティングのこと
2)「ダイレクトメッセージ」のDM
Instagram、Twitterなどのプラットフォームを通じ、
直接、ターゲットとコミュニケーションをとるマーケティング手法
3)「ダイレクトメール」のDM
企業から個人宛にダイレクトに送られる
宣伝や営業のためのハガキや封書などの印刷物
今回取り上げるのは、
1)の「ダイレクトマーケティング」の中の、
3)の「ダイレクトメール」に目を留めたお話ですが、
なぜ?デジタル時代にハガキや封書などの紙を使ったアナログな話をするのだろう?と思っていませんか。
読み進めていただければ、その重要性が見えてくるはずです。
ずばり!開封率が高いのは
「Webマガジン」より「紙のダイレクトメール」
企業が行うお客様へのアプローチには「プッシュ型」と「プル型」 という2つの方法があります。
紙は「プッシュ型メディア」と呼ばれ、目を通しやすいという特徴があり、
Webは「プル型メディア」と呼ばれ、わざわざサイトへ読みに行くという行動が必要です。
つまり、「紙のダイレクトメール」は、手に取るついでに開封し読んでもらえる確率が高くなり、
「Webマガジン」は、ページにアクセスするひと手間がかかる分開封率が低くなるのです。
ですから、デジタル化が進んでも開封率の高さを生かした
「ダイレクトメール」をうまく活用すべきなのです。
「ダイレクトメール」は特別感を演出できるツール
まず、印刷物のハガキや封書のダイレクトメールには、
印刷ならではの“美しさ”、いわゆる“クオリティ”が保てるという利点があります。
というのも、印刷では、安定した色表現で商品掲載ができますし
多くの書体が使え、自由なデザイン表現もできます。
対して、Web上の表現では、デバイス(*1)によって商品の色が異ったり
説明文の文字配列が整わないことも発生します。
中でも、特筆すべき「ダイレクトメールの魅力」は、
紙という質感を感じられると言うことです。
重さ、香り、手触りなどにより、お客様へ向けた特別なメッセージを、
目や、鼻や、指で、感覚的に捉えてもらえるのです。
また、お客様に文章を読んでいただくという観点からも、印刷物に軍配があがります。
スマートフォンは、短い文章に向いたデバイス(*1)で、長い文章には不向きです。
長文を読む際は、スクロールしたり拡大したりと、
読みにくさを感じた経験をお持ちの方も多いでしょう。
対し、印刷物は、全体像を確認できストレスなく読むことができるのです。
さらに、お客様一人ひとりに異なるメッセージを送ることができる印刷
「バリアブル印刷(*2)」も、特別感を演出するのに大きく貢献しています。
(*1)デバイスとは
スマートフォンやタブレット、パソコンなどのデジタル機器や、
それらに接続して使うPCモニターやキーボード、ワイヤレスイヤホンなどの総称です。
ここで言うデバイスは、スマートフォン、タブレット、パソコン、PCモニターを指しています。
(*2) バリアブル印刷とは
1枚1枚異なる文字や画像などを印刷していく技術です。
例えば200人の顧客情報それぞれにあった商品画像を使い、200パターンのダイレクトメールを発送するイメージです。
デジタル印刷(オンデマンド印刷)で小ロットから大ロットまで様々な部数に対応できます。
特別感のある「ダイレクトメール」は
大切な人への贈答の感覚を添えて
単なる物と物のやりとりではなく“こころ”を“かたち”にして表すのが、日本の「贈り物文化」です。
贈答のルーツは、神様への供物だったと考えられています。
それが江戸になると、庶民の間で「おすそ分け」として広まって行きました。
この風習は、お互いの縁が途絶えてしまわないようにという心遣いから生まれたのです。
昔は贈り主が白い紙で包んだ贈答品。
古来より紙は貴重だったため、公卿たちは手紙のやりとりの際に、
その“白さ”を競うほど、白色には特別な意味がありました。
出典:DiscoverJapan, 小笠原流礼法宗家小笠原敬承斎氏インタビュー,
現代に受け継がれる贈答のルーツとは?贈り方の基本, 2020.12.29,
https://discoverjapan-web.com/article/45493
古来に貴重だった紙が、現代の生活では当たり前にあふれペーパーレスが叫ばれる今ですが、
大切な場面では「手紙をしたため、贈り物に熨斗をかけ、丁寧に包装し」と
ここぞ!という時、“紙”がその力を発揮します。
それは、いにしえより日本人の贈答に紙が欠かせないものだったことが、
大きく関係していると言えるでしょう。
紙を使ったダイレクトメール。
大切なお客様への、大切な贈り物という気持ちで、
お中元やお歳暮のように、相手が喜ぶものは何か?
お客様の欲しているものをリサーチした上で、ぜひ制作に取り組んでください。
「ダイレクトメール」単体ではなく
デジタルと複合的に使うのが今流
今の時代に肝心なのは、「デジタルと紙を複合的に使用すること」。
「デジタル発信とダイレクトメール」を、適材適所で活用している
有名企業も多く、成果も上がっています。
流れとしては、「ダイレクトメールを送る→Webへ誘導→さらなる情報の伝達」です。
デジタルデータと紙を組み合わせた
「ディノス」の成功事例から学ぶ
では早速、「デジタルと紙を融合した成功事例」を見てみましょう。
ディノス・セシール(受賞当時旧社名)
メールよりもコンバージョン率20%アップ
最短24時間以内に送付するジャストタイミングのDMでカタログに反応が薄い顧客にもリーチ
[第33回全日本DM大賞 グランプリ受賞(主催/日本郵便)]
EC(*3)と紙をリアルタイムで連携させた施策。
最新デジタル技術と、ディノスが得意とするカタログやハガキといった紙メディアを統合。
カートを離脱した顧客へ最短24時間以内に送付するDMや、
自動化してコーディネート提案などを行うDMを展開。
(*3)ECとは
「Electronic Commerce」の略で日本語では電子商取引の意味ですが、
通常、ネット通販、ネットショップなどがこれに該当します。
ポイント①
カート離脱した顧客に送付した“カート落ちDM”。
最新技術の活用で、顧客アプローチのリードタイムを極限まで短くした
ポイント②
商品は3点紹介する仕様。
カートに1点しか入っていなかった場合は、事前に設定した2商品を加えて3商品紹介した
出典:第36回DM大賞 贈賞式直前企画]過去グランプリ入賞作品を振り返る①
第33回 金賞・グランプリ 広告主:ディノス・セシール, 2022年 3月11日,
https://www.dm-award.jp/news/33th-award.html
とにかくアプローチが早く「お客様の買い物熱が冷めないうちに!」を、実践した例です。
縦割りなりがちな「デジタルメディア部門」と「紙メディア部門」が、
うまく連動し機能している例とも言えるでしょう。
その結果、投資収益率が104%となり、黒字となりました。
最後に。紙メディアの優位性の実証
「紙メディアの方がディスプレーより理解できる」
ダイレクトメールに関する脳科学実験で確認されたと言います。
国際医療福祉大学の中川雅文教授監修のもと実施し、
脳内の情報を理解しようとする箇所の反応は紙媒体の方が強く、
ディスプレーよりも紙メディアの方が情報を理解させるのに優れていることや、
DMは連続的に同じテーマで送った方が深く理解してもらえることなどが確認されました。
出典:TOPPAN FORMS,ニュースリリース,
「紙媒体の方がディスプレーより理解できる」ダイレクトメールに関する脳科学実験で確認, 2013年7月23日,
https://www.toppan-f.co.jp/news/2013/0723.html
まとめ
その優位性も化学で実証された「紙メディア」。
しかし、紙単体ではなくデジタルと紙の使い所を見定めうまくミックスさせ、
お客様一人ひとりに合った特別感を打ち出すことが肝要です。
それは、お中元やお歳暮を贈る時のように、相手が喜ぶもの、求めているものは何か?
相手をより深く知ることからその思考をスタートし、
「大切な人への重要な贈り物 = それぞれのお客様に合ったダイレクトメール」
という感覚をベースに、一人ひとりに合わせた品画像などを掲載できる個別印刷、
いわゆる「バリアブル印刷」を選択肢の一つとして、考えてみてください。
ただしそれは、お客様動向をSNSなどデジタルメディアで収集した上で行わなければ
お客様に全く響かないものになってしまい、水の泡になってしまいます。
お客様一人ひとりに個別に向き合う様に、その付き合い方を
さらに丁寧におこなっていくと言うことが大切なのです。