第28回経営者コラム|AIの近未来。その活用法は? 広告・マーケティング分野での 働きと関わり方を予測。
1956年ダートマス大学で開催された「ダートマス会議」では、
「人工知能(AI=Artificial Intelligence[アーティフィシャル・インテリジェンス])」
という言葉が初めて使用され、AI研究の始まりとなった歴史的な出来事です。
この会議では、コンピュータが人間のように思考し、学習することができるか?
という問いに挑む新しい学問分野が発足しました。
この重要な会議から数十年が経ち、AIはゆっくりと進化を遂げ、
2020年頃には実用的な技術として本格的にスタートしました。
そして現在、AIは広告やマーケティングの分野でも大きな変革をもたらしています。
本コラムでは、ダートマス会議から始まったAIの歴史を振り返りつつ、
現代におけるAIの活用とその近い未来について
プラス面マイナス面を考慮しながら、AIがどのようにビジネスや
マーケティングを変革し、人々に影響を与えるのか?を、考察していきます。
目次
AIの研究がスタートしたのはいつ?
進歩のきっかけ「ダートマス会議」とは?
AI(人工知能)の研究がスタートしたのは、1950年代頃です。
初期のAI研究の目的は、チェスなどのゲーム、数学の定理証明、パターン認識など、人間の知的活動を模倣することでした。
また、自然言語の理解や機械翻訳といった言語処理も初期の重要な研究テーマでした。
これらの初期のAIは、主に実験的な用途で使われ、実用には限界がありました。
が、1956年の「ダートマス会議」が「AI(人工知能)誕生」の重要な契機となりました。
この会議で「人工知能」という言葉が初めて使われ、コンピュータが人間のように思考できるようにする研究が始まり「人工知能(AI)」の分野を、正式に発足させたのです。
ダートマス会議とはどのような会議だったのでしょう。この会議の目的は、「知的な行動をコンピュータで模倣できるか?」という問いに答えるためさまざまな研究者が集まり、議論やアイデアの交換を行うことでした。
それは、ジョン・マッカーシーをはじめとした当時の著名な科学者が企画・主催した会議で、「機械が人間のように考え、学習し、問題を解決できるようにするにはどうすれば良いか」というテーマについて議論が行われました。
その際、提案されたアイデアやアプローチが、その後のAI研究の基礎となり、知識表現、探索アルゴリズム、機械学習などが形成されていくきっかけとなりました。
このことから、「ダートマス会議」は、「AI」という新しい学問分野を公式に誕生させたと言われるようになったのです。
画像出典:Wikipedia, John McCarthy (computer scientist), https://en.wikipedia.org/wiki/John_McCarthy_(computer_scientist)
数年でここまで変わった
AI(人工知能)活用
では、現代へ戻りAI(人工知能)について考えていきます。
ここ数年でAIの世界が変化しています。
2022年から2024年の変化を、企業動向とともに見ていきましょう。
2022年頃のAI活用
AIは主にデータ分析、予測モデル、自然言語処理などの分野で活用されていました。
特に企業においては、業務の効率化や自動化を目的とした導入が進み、チャットボットや推薦システムが広く利用されるようになりました。
たとえば、「楽天(株)」は、AIを活用して顧客に最適な商品を推薦するシステムを導入し、購買体験の向上を図っていました。
また、「LINE(株)」も、自然言語処理を用いたAIチャットボットを活用し、カスタマーサポートの自動化を進めました。この時期、生成AIも注目され始め、広告コピーの自動生成やコンテンツ作成の補助など、クリエイティブな分野での実験が行われていましたが、まだ本格的な実用化には至っていませんでした。
2024年のAI活用
現在は、生成AIが主流となり、クリエイティブなコンテンツの生成やコード作成、複雑な問題解決など、より高度な領域での活用が進みました。
たとえば、「ソフトバンク(株)」は、AIを活用して自社のマーケティング活動を最適化し、ターゲット顧客へのパーソナライズド広告を自動生成するシステムを導入しました。
また、「サイボウズ(株)」は、AIを活用してプログラムコードの自動生成やデバッグを効率化するツールを開発し、エンジニアの作業効率を大幅に向上させました。
さらに、「富士通(株)」は、AIを用いた製造プロセスの最適化により、製品品質の向上と生産コストの削減を実現しました。
同時に、AI倫理や規制の議論が活発化し、AIを導入する際の透明性や公平性がより重視されるようになりました。
ただし、日本ではAI倫理に関する議論は欧米に比べて遅れていると指摘されています。
———————————————————–
2022年から2024年にかけて、AIの活用は大きく進化し、単なる効率化や自動化のツールから、クリエイティブな領域にまでその適用範囲が広がり、より高度な用途に移行しています。
この変化に伴い、世界的にはAI倫理や規制への関心が高まり、特に透明性や公平性が求められるようになりました。
しかし、日本では技術の導入が優先され、AI倫理に関する議論や規制の整備は後回しにされている状況です。
透明性を持たせるためには、AIの意思決定プロセスを人間が理解しやすい形で説明することができる技術の活用が鍵になるのでは?と期待します。
その技術は、「説明可能なAI(Explainable AI、XAI)」とよばれています。
AIのブラックボックス化を解消し決定プロセスを明確にすることで、利用者が信頼できるAIシステムを構築できるのです。
この「説明可能なAI」で、透明性の向上が期待されるのです。
出典:SREホールディングス/山下祥吾,AI&DX Navigation, AIは透明性の時代へ!説明可能なAIがもたらす革新, 2023.12.01,
https://ac.sre-group.co.jp/blog/explainable-ai
———————————————————–
AI活用に対し、今もっとも懸念されるのは「倫理」と「クオリティ」
AIの活用はより多様化・高度化し、同時にその社会的影響にも注目が集まるようになっていますが、日本においては、技術的進歩と倫理的配慮のバランスが今後の課題ですし、生成された画像などのクオリティは、まだまだだと感じます。
Pivot Tokyo主催のセミナー「生成AIコンテンツとメディアの未来」では、倫理面で以下の懸念が述べられました。
著作権侵害、つまり勝手にコンテンツを2次使用されてしまう恐れがあり、それが広告機会の損失にもつながってしまうという点です。
また、ライターやクリエイターの仕事を奪うとも懸念されています。
クオリティ面は、いわゆる間違った情報や意図的にフェイク情報が生成されるという点が挙げられるでしょう。
人の手によるクリエイティブに関しては、第一に、自分のつくったコンテンツが他人に悪用される可能性があるという非常に大きい問題が挙げられます。
さらに、広告掲示の在り方も問われるでしょう。
出典:Cstation, AIとメディアの未来:ブランドセーフティな生成AIコンテンツの可能性と課題|AI Marketing BB東京@国立新美術館 セミナーレポート#2,2024.05.28,https://c.kodansha.net/news/detail/45614/
———————————————————–
日本での著作権侵害は、AIを活用した問題が大きく注目されています。
読売新聞オンラインの記事によると、文化庁は、生成AI(人工知能)の開発や利用に伴う著作権侵害事例の収集に乗り出したとされています。
これは、時間をかけて創作した作品と似た文章やイラストがAIで大量に生成されることなどへの懸念を訴えるクリエイターらの不安解消につなげる狙いとしています。
AIと著作権をめぐって現行著作権法の解釈を明確にする「考え方」の素案を大筋でまとめたが、「AI学習による著作権侵害事例や裁判例の蓄積がない」(文化庁)として、法改正の議論には踏み込まなかったとの記載があり、今後の文化庁の動向が気になるところです。
出典:読売新聞オンライン, 生成AIによる著作権侵害の実例、文化庁が収集開始…クリエイターらの不安解消狙う,2024/03/13, https://www.yomiuri.co.jp/culture/20240312-OYT1T50242/
———————————————————–
現時点では何を参考にしたかわからないAI。
だからからこそ、使い手の倫理と関わり方が求められる
AIができることとできないことの共通認識ができつつあると感じる昨今、その線引きが明確化すれば、AI活用のアイディアもより多く生まれていくと考えられます。
ただし、AIの参考元が不明である以上、広告活用やマーケティング活用としてのAI活用のアイディアを、手放しに喜ぶことはできません。
【今後の人とAIの関わり方の予測】
今後、AIと人間の関係は、協働の形態が一層進化していくと考えられます。
AIは、データ分析や業務の自動化に優れていますが、創造的な発想や戦略的な意思決定、そして倫理的な判断については、引き続き人間が重要な役割を果たすべきです。
たとえば、富士通やソフトバンクでは、AIを導入することで、複雑な問題の解決や意思決定の質を高める取り組みが進んでいます。
今後は、単純作業はAIに任せ、人間はより高度で創造的な業務に専念できる環境が整うと予測されます。また、AIと共に仕事をするスキルが求められる中で、これに対応した教育や研修の必要性も増していくでしょう。
【広告業界・マーケティングでの人とAIの使い分け】
広告業界やマーケティングにおいては、AIと人の役割分担がますます重要になります。
AIは、データ分析やターゲティング、パーソナライズされたコンテンツの生成において非常に有用です。
たとえば、電通や博報堂では、AIを活用して大規模なデータを分析し、リアルタイムで効果的な広告戦略を立案しています。
しかし、広告のクリエイティブな部分やブランド戦略の構築においては、人間の感性や文化的な理解が不可欠です。AIが提供するインサイトを活用しつつ、最終的なクリエイティブディレクションや戦略的判断は人間が行うべきなのです。
こうしたAIと人間の協働によって、より高い生産性と効果的なマーケティング活動が実現されつつあります。このようにして、AIを補完的に活用しながら、ビジネスの価値を最大化することが求められています。
まとめ
AIに「取って代わられると思うか?」「助けてくれると思うか?」・・。
それは、使い手である人の考え方次第。
まだまだ、出典元やクリエイティブの面で、不安要素があるAIですが、きっと近い将来、そのリスク要素を軽減するアプリケーションや、法改正などがされると筆者は予測しています。
そうなった時、やはり使いこなすのは「人」ということになります。
特にマーケテイング分野の分析は、数字が材料ということになりますので、AIにとっては得意分野です。
今の段階からAIに触れ、その技術を体現することで使い方のコツをつかみ、人の手助けをしてくれるAIを使いこなす術を見つけ、進む。
プライベートでもビジネスシーンでもその力を借りれば、有効な時間の使い方が、きっとできることでしょう。