第32回 経営者コラム|⾃然体で⾏くか? ビジネスライクで⾏くか?「アグリー広告」VS「かっこいい広告」の⾏⽅
映画「アナと雪の⼥王」の挿⼊歌の歌詞に
「ありのままの 姿⾒せるのよ」というフレーズがあります。
ありのまま=⾃然体の姿を⾒せること、そして、それを受け⼊れることは
価値観の違いを否定するのではなく、多様性をお互いに受け⼊れ合うこと
にもつながると感じますし、現代に⽣きる⼈々にとって
⽬を逸らしてはならない事柄でもあります。
新しい年の幕開けの時期は、事業戦略を⾒直し未来への道筋を描く重要な時期です。
消費者の価値観やコミュニケーションの在り⽅が変化する中で、
いろいろな価値観を持つ⼈々の⼼をどう掴むべきか?
⾃然体を武器にする「アグリー広告」か、
それとも、スマートで洗練された「かっこいい広告」か?
本コラムでは、これら2つの広告スタイルの特徴や効果、
さらに、それぞれの戦略を採⽤すべき業態などについて掘り下げ、
2025年の広報活動の⾏⽅を考えます。
目次
知っていますか?⾃然体な作りの「アグリー広告」。そしてその価値は?
「アグリー広告」とは、⽂字通り「美しくない」広告を指します。
しかし、この「美しくない」という⾔葉は必ずしも否定的な意味ではありません。
むしろ、美的完成度やプロフェッショナルな仕上がりを追求するのではなく、
リアルさや親しみやすさ、共感を重視したアプローチとして注⽬されています。
アグリー広告の背景には、SNSの普及や消費者⼼理の変化があります。
消費者は過剰に作り込まれた広告に対し「現実感がない」と感じる⼀⽅で、
等⾝⼤のメッセージや不完全さに⼼を動かされることが多くなっています。
例えば、撮影時のミスや裏側をあえて⾒せることで、ブランドが「⼈間らしさ」を伝えることが可能になります。
このアプローチは、特に若年層や多様な価値観を持つターゲットに響きやすいと⾔えるでしょう。
「アグリー広告」の実例から感じ取る、⾃然体のフィーリング
アグリー広告は、意図的に洗練されていないデザインや演出を⽤いることで、
視聴者に親近感や共感を与える広告⼿法です。
下の写真のような、雑然・雑多感・⽇常感のある表現、
⼿ブレした映像や散らかった机などが「アグリー広告」の表現です。
では、実例を⾒てみましょう。
【Nuts.com】の広告
Nuts.comは、ナッツやドライフルーツを販売するオンラインストアです。
同社の広告では、⼿ブレしたカメラワークで、仕事中にお気に⼊りのスナックの
袋を⾒せる動画を使⽤しています。また、散らかった机の上に商品が置かれ、
視聴者の⽇常⽣活に近いリアルな状況を描写することで、
過度に作り込まれた広告とは⼀線を画しています。
このようなアプローチで、視聴者の⽇常に⾃然に溶け込み
広告としての違和感を減らすことで⾼い広告効果を実現しています。
引⽤:Digiday Japan
出典:Nuts.com,Instagram,
https://www.instagram.com/nutsdotcom/reel/CucQSFBv9hS/?next=%2Fovitu%2Ffeed%2F&hl=ja
DIGIDAY, 編集部,⼿ブレした映像や散らかった机。いま「 アグリー広告 」のパフォーマンスが⾼い理由2024/2/19,https://digiday.jp/modern-retail/dtc-briefing-why-ugly-ads-are-taking-off/
【広告に結びつくSNS 発信】
⽇本においても、SNSの普及とともにアグリー広告の利⽤が増加しています。
特にInstagramやTikTokなどのプラットフォームでは、ユーザーが短い動画を
⼿軽に制作・共有できるため、企業がユーザー⽣成コンテンツを活⽤し、
低コストで多くのユーザーにリーチすることが可能になっています。
また、YouTubeにおいては、ユーチューバーが⽇常感のある⾃宅から
発信することで、親近感を得るなどの⼿法も取り⼊れられています。
↓整っていないベッドを背景に美しい⼥性が発信することで得られるギャップ感。親しみやすさを感じる発信
出典:柳橋唯チャンネル,フルメイクしながら…について答えます【質問コーナー】
,2024/12/12 アクセス,https://www.youtube.com/watch?v=iMK0uxL6R0gv
事例からもわかるように、アグリー広告が視聴者に親近感を与え、
効果的なマーケティング⼿法となり得ることを⽰しています。
洗練されたかっこいい広告の魅⼒と実例
対照的に「かっこいい広告」は、従来の広告の美しさを踏襲しつつ
洗練されたビジュアルやストーリーでブランド価値を⾼める⼿法です。
以下はその成功例です。
【ブラザー CM】
ブランドの⾼い技術を際⽴たせる広告です。
視覚的な美しさとブランドのアイデンティティを強調しています。
無機質で洗練された映像と何も語らないストーリーでプレミアム感を⾼め、
消費者に強い印象を与えることに成功しているCMと⾔えるでしょう。
出典: ブラザーYouTube, ブラザー企業CM「削るって、カッコいい」篇(37 秒),20241212 アクセス,
https://www.youtube.com/watch?v=JvRHXMeGJCs&list=PLqb2laoxzPzlxMNuVM5kAvqtkX8URy2l2&index=25
【JR 東⽇本 CM】
あり得ない世界観でかっこよさを演出したCM。
流線型で無機質な新幹線と、空想の世界の対⽐、そして、⾮現実的だからこそ
そのかっこよさが際⽴っています。
出典: JR 東⽇本 新幹線YEAR 2017 ①, 20241212 アクセス,https://www.youtube.com/watch?v=RkRfkKJ8PeU
「アグリー広告」と「かっこいい広告」どんな事業者に向いているのか?
⼀概には⾔えませんが、⼤きく分けると以下のような事業者に向いていると⾔えます。
アグリー広告は、共感や親近感を重視する業界や、SNS上でのバイラル効果
(⼈間の⼝コミによって何かが爆発的に広まっていくこと)を狙いたい企業に最適です。
特に、若年層や地域密着型の事業者は、この⼿法が効果的でしょう。
⼀⽅で、かっこいい広告は、⾼価格帯の製品をあつかうブランドやBtoB企業、
さらに、ブランドイメージの⼀貫性を重視する企業に適しています。
この⼿法は、消費者やお客様に「特別感」や「信頼性」を与える効果が⾼いため、
競争の激しい市場での差別化にも有効です。
まとめ
広告業界は「⾃然体」と「洗練」の両極が同時に進む年となるかもしれません。
「アグリー」「かっこいい」どちらのスタイルもそれぞれの強みがありますが、
最終的に成功を左右するのは「ターゲットの⼼に届くかどうか」です。
事業者は⾃社の価値観とターゲット層の求めるものを的確に⾒極めなくてはなりません。
そのために事業者トップは、多くの意⾒に⽿を傾け、社員の多様性ある考えや
年齢に関係のない多くの意⾒を取り⼊れる勇気を持つべきでしょう。
また、それらを精査する⽬を持つために、多くのSNSに触れる機会を持つべきだと考えます。
2025年の広告業界では、さらなるAI技術の進化により、より個⼈に合った広告が主流になると思われます。
特にチャットボットが重要な役割を果たし、顧客とのやり取りを改善し、広告の安定性を⾼めるでしょう。
※チャットボットとは、⼈⼯知能を使って⾃動で会話するシステムのこと。
しかし今後は、プライバシーの保護やAIの倫理的な使い⽅が新たな課題となるでしょうし、
⾃社はもちろん社会全体で、この倫理的な問題に取り組む必要があります。
時代は変化し続けています。 1つの物事が進めば、その分、問題も発⽣します。
その問題に、いかに迅速に対応できるか、いかに柔らかい思考でものを考えられるか。
「広告においても」「それ以外の事業展開においても」、
これからは、より柔軟な思考と対処能⼒が求められるに違いありません。