第37回経営者コラム|トレンドについて考える05 “偶然性”が価値になる時代へ。 アルゴリズムにあらがう “あえての出会い”消費。

SNSのおすすめを“自動的に提示するシステム”。大変便利ですが、自分の好みのものしか表示されない”時代が生んだ閉塞感”を感じている人も多いのでは?
現代社会では、SNSやECサイト(*1)のアルゴリズム(*2)によって、私たちの「好き」が自動的に提示される時代です。
しかし、その便利さの裏で、予期せぬ出会いや偶然の発見が減少し、閉塞感を感じる人も増えています。
これは、新しいものを知る楽しさ、自分の好きが増える喜びが淘汰されていっているとも言えるかもしれません。
海外のトレンドを見てみると、特にZ世代(*3)を中心に、予測不能な出会いや偶然性を求める動きが広がっており、
「あえて選ばない」「偶然に委ねる」ことが新たな価値として注目されています。
今回は、中小企業や小規事業者が問い入れやすい「偶然性」を活用した販促手法について、具体的な事例とともに探っていきます。
(*1) ECサイトとは
インターネット上の店舗で、商品を売買できるウェブサイト。
(*2) アルゴリズムとは
人の好みに合わせ自動で商品や情報を表示する仕組み。
(*3) Z世代とは
1990年代後半〜2010年生まれの、デジタル慣れした若い世代。
目次
Z世代に学ぶ。
偶然性を楽しむ消費行動に注目してみる!
Z世代を中心にした偶然性を取り入れた消費行動トレンドには、「シャッフル読書」や「ランダムガチャ」「手探り旅行」など、予測不能な体験を楽しむ動きが広がっています。
これらの行動は、アルゴリズムによって最適化された日常から一歩踏み出し、新たな発見や刺激を求める姿勢の表れです。
このようなトレンドは、消費者が「選ばない」こと自体、『予測不能な体験や偶然性』に価値を見出す時代の到来を
示していると考えられます。
【シャッフル読書】
アメリカのZ世代の女子の間では、アルゴリズムの反動とも言える予測不能な体験「シャッフル読書」が人気。
あらかじめ自分で選んだ本ではなく、ランダムに割り当てられた本を読むという読書スタイルが「シャッフル読書」です。
「読んだことのないジャンル」「無関心だったテーマ」に触れることの価値が見直されているという流れがあると同時に、アメリカのZ世代女子に人気である背景には、人とのつながりに対する根強い憧れもあるようです。
画像参考: LIFE INSIDER,アメリカのZ世代女子の間で今、流行っているのは「読書会」, Apr 13, 2024, 3:00 PM,https://www.businessinsider.jp/article/285042/
画像参考: TBSラジオ, 本のプロでも、ぶっちゃけ読んでない名作がある。読書の超個人的な自意識トークがスゴすぎた【福田里香×金田淳子×宇多丸×宇垣美里】,2022年03月29日,https://www.tbsradio.jp/articles/52927/
【ランダムガチャ】
ランダム要素を取り入れたガチャガチャやカプセルトイも人気を集めており、専門店の増加やオンラインでの展開が進んでいます。
トランス+2fobees.jp+2セカイコネクトSTUDIO+2
画像参考: UI未来Bace,消費のススメvol.3 ワンコインから楽しめる! 進化を遂げた最新「ガチャガチャ」の世界,
【手探り旅行】
旅行でも、目的地や旅行日程などを詳細に決めず現地での偶然の出会いや体験を楽しむ「手探り旅行」が注目されています。
また、「ランダム旅行先決めアプリ」も登場しているといいます。
これは、地図をタップするだけで日本全国のランダムなスポットを表示してくれるアプリで、行き先を決める際に偶然性を取り入れたい人に
おすすめです。
事業者の皆様にとっても、偶然性を取り入れた商品やサービスの提供は、新たな顧客層の獲得やブランドの差別化につながる可能性があるようです。
“偶然性”を、展開してみるなら?
取り入れやすい実例は?
事業者の皆様が、“偶然性”を活用するためには、以下のような販促手法が、入り口になりやすいでしょう。
謎袋(ミステリーバック)
昔ながらの福袋が日常展開になり、中身を充実させ人気に。
中身が見えない状態で販売される「謎袋」は、消費者にとって開封するまでのワクワク感や驚きを提供します。
例えば、北海道のとある商店では、地元のお菓子やお土産を詰め合わせた「謎袋」を販売し、観光客や地元の人々から好評を得ています。
大手企業の実例をいくつか見てみましょう。
1. コムデギャルソン(COMME des GARÇONS)
日本を代表するファッションブランド「コムデギャルソン」は、毎年年末に「ハッピーミステリーバッグ」を販売しています。
このバッグには、ブランドのTシャツや過去のスペシャル商品が含まれており、何が入っているかは開けてからのお楽しみとなっています。毎年発売から数日で完売する人気企画です。
参考:コムデギャルソン ファンウェブマガジン, 【2024年】コムデギャルソンの福袋「ハッピーミステリーバッグ」
発売,20241201,https://cdg-freak.com/happy-mystery-bag/
画像参考: ブランド品の買取査定LIFE, コムデギャルソンから2022年の「ハッピーミステリーバッグ」が発売!気になる中身は?,https://lifeonline.jp/commedesgarcons-2022-happy-mistery-bag-2212
2.藤巻百貨店
職人やクリエイターと共に開発した逸品を扱うセレクトショップ「藤巻百貨店」では、何が入っているかは、届くまでのお楽しみ!の「ミステリーバッグ」が毎年末に登場。
人気の“ ちょっと気の利いた”アイテムを厳選!しかもどれも 1/8の確率で大当たりが入っていることから、即完売の大人気に。
参考(画像参考含):藤巻百貨店,ミステリーバッグ,20250517アクセス,
https://fujimakiselect.com/ext/mystery_bag/index.html?srsltid=AfmBOor9cZMyWUFs1G00xpN-f79RgSNJk35wARTPXUyM-GKj1P0jzP-a
これらの事例は、商品の中身をあえて明かさないことで、消費者に「何が入っているのか」というワクワク感や期待感を提供し、購買意欲を刺激しています。
過去の福袋は、売れ残り商品しか入っていないと言うイメージでしたが、この「謎袋(ミステリーバッグ)」には、人気の品が入っているかも?という期待感があり、福袋とは一線を画しています。
中小企業や小規模事業者にとっても、在庫品や限定商品を組み合わせた「ミステリーバッグ」を企画することで、販売促進やブランド認知の向上につなげることができるでしょう。
くじ引きや抽選イベント
購入者限定で、くじ引きや抽選で景品が当たるイベントを実施。
こちらも昔ながらの古典的な手法です根強い人気があり、偶然性を取り入れた販促が可能となるのはもちろん、抽選箱やくじ引きセットを活用するだけで手軽に実施できるのも魅力です。
1.購入者向けくじ引きイベント
大阪市「南港ポートタウンショッピングセンター」
新春くじ引き大会を開催し、参加者に豪華景品が当たるイベントを実施。
くじ引きイベントは、来店動機を創出し、顧客との接点を増やす効果が期待できます。
参考(画像参考含):南港ポートタウンショッピングセンター,NEWS ショップニュース,https://porttown.jp/news/shop_news/2591/
2.社内ベンチャーにおけるくじ引きの活用
第一コンピューター印刷株式会社(イチコン)
新潟県三条市にある第一コンピューター印刷株式会社(イチコン)では、社員8人による架空の社内ベンチャー企業を立ち上げ、社長から平社員までの役職をすべてくじ引きで決定するというユニークな取り組みを行いました。
この取り組みにより、社員が自発的に商品開発や販売促進に取り組むようになり、実際に自社商品を開発し、商品発表から販売までこぎつける成果を上げました。
このような偶然性を取り入れた役職決定は、社員のモチベーション向上や新たなアイデアの創出につながっています。
参考(画像参考含):まいどなニュース,あなた、今日から社長ね」くじ引きで役職を決めた“社内ベンチャー企業” その成果は?20250517アクセス,https://maidonanews.jp/article/13715459
くじ引きに特化して考えるなら、就職活動や社内ベンチャー、デジタルくじ、LINEクーポンの抽選機能など、さまざまな形で活用することが可能です。
偶然性全体で考えるならば、
社外だけでなく、社内向けた「偶然性」の施策で、社内外とも活性化を図ることができそうです。
この他、通常は店頭に並ばない非公開商品や、数量限定のアイテムをランダムに販売することで、消費者にとっての特別感や偶然性を演出できます。
これにより、リピーターの獲得やSNSでの話題性を高める効果が期待できます。これらの手法を取り入れることで、中小企業でも低コストで「偶然性」を活用した販促が可能となります。
まとめ
偶然性を取り入れた体験を設計する!
特にZ世代を中心に、消費者が予測不能な体験や偶然性を求める傾向が
強まっている「偶然性トレンド」を取り上げた今回コラム。
「選ばない」ことの価値を理解し、偶然性を取り入れた体験設計を行うことが、今後のマーケティング戦略において重要な要素となること、感じ取っていただけたでしょうか。
また、「くじ引きのような従来手法」であっても、少し現代的にアレンジするだけで多くの世代に響くイベントとなりうるのです。
現代社会のSNSやECサイトのアルゴリズムによって、私たちの「好き」が自動的に提示される時代を逆手に取り、自社の業態や顧客層に合わせた「偶然性」の取り入れ方を検討し、新たな価値創出に挑戦してみてください。
顧客に新たな自社体験を提供するために、手軽に導入できる方法からぜひお試しを。