第46回経営者コラム|トレンドについて考える14 「メニューが少ない店」が人気。 選ばせない勇気が信頼になる理由

最近、飲食店のあり方が少し変わってきたと感じます。
ずらりと並ぶメニュー表ではなく、3〜5品だけが静かに並ぶ店。
あるいは、主役は一品のみ、という専門店。
選択肢が少ないにもかかわらず、
むしろその潔さが支持され、繁盛している店が増えています。
私たちは長らく、「選べること=親切」だと考えてきました。
しかし今、“選ばせない”ことが、信頼につながる時代が
訪れているのかもしれません。
筆者の頭をよぎった言葉は「餅は餅屋(もちはもちや)」。
お餅は餅屋でついたものが最も美味しく、餅屋に頼むのが確実であり、
最も信頼できる!
ものごとの背景を感じながら、
事業展開のヒントとして捉えてみたいと思います。
目次
勝負している繁盛飲食店。
別業種でも起こるウェーブ
とん汁一本で勝負する店
東京・東大前の「吉田とん汁店」は、基本はとん汁定食のみ。
選べるのはご飯の量程度です。
しかしその一点集中の姿勢が、「ここはとん汁を食べる店だ」という
明確な印象を与えています。
迷わない。だからこそ安心できる。


参考出典(画像含):食べログマガジン,“ただ一つ、それを食べるために!単一メニューが旨い店”,
https://magazine.tabelog.com/articles/25855
生姜焼き専門という潔さ
東京・江古田の「笑姜や」は、生姜焼き専門店。
味付けの違いはあっても、主役は常に生姜焼き。
選択肢を増やすのではなく、一皿の完成度を高める。
それが通いたくなる理由になっています。

参考出典(画像含):食べログマガジン,“ただ一つ、それを食べるために!単一メニューが旨い店”,
https://magazine.tabelog.com/articles/25855
白Tシャツだけのブランド
白Tシャツだけを販売するブランド「#FFFFFFT(シロティ)」。
黒も出さない。色展開も広げない。白Tだけ。
その代わり、素材・サイズ・シルエットを徹底的に磨く。
「何屋なのか」が一瞬で伝わるブランドは、
それだけで信頼を得ます。

参考出典(画像含):インスタグラム,fffffft_sendagaya, https://www.instagram.com/fffffft_sendagaya/
選択肢の少なさが、
なぜいま支持されるのか?
【データから見えてくるもの】
データ1)
なぜ“少ない”ほうが売れるのか?
この現象は、感覚ではなく実験で確認されています。
2000年、米コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授(Sheena S. Iyengar)と
スタンフォード大学のマーク・レッパー教授(Mark R. Lepper)が行った
有名な実験です。
高級スーパーの売り場に、
・24種類のジャムを並べたブース
・6種類のジャムを並べたブース
の2パターンを設置しました。
結果は次の通りです。
▶ 24種類のブース 立ち止まった人:約60%
実際に購入した人:約3%
▶ 6種類のブース 立ち止まった人:約40%
実際に購入した人:約30%
つまり、選択肢が少ないほうが、購入率は約10倍高かった
という結果になりました。
選択肢が多いと一見魅力的に見えますが、
実際には迷いが増え、決断を先送りしやすくなるのです。
参考出典:Iyengar, Sheena S. Lepper, Mark &R.,“When Choice is Demotivating”,Journal of Personality and Social Psychology,2000年
データ2)
選択肢が多いと「意思決定疲労(Decision Fatigue)」が発生する。
心理学者ロイ・バウマイスターらの研究では、
人は1日に大量の意思決定をすると、判断力が低下することが示されています。
例えば、
・判事の仮釈放判断は、
昼食前は厳しく、食後は緩くなる傾向があった
(午前中は約65%許可 → 終盤はほぼ0%まで低下)
判断を繰り返すと、脳のエネルギーが消耗し、
“考えない選択”をしやすくなります。
参考出典:Baumeister, Roy F. et al.,
“Ego Depletion”,Journal of Personality and Social Psychology,1998年
Danziger, Levav & Avnaim-Pesso,“Extraneous Factors in Judicial Decisions”,PNAS,2011年
データから見えてきたのは、
選択肢が多いほど、お客様は疲れるということです。
「多い=安心」 とは限らない。
「明確=安心」 という感覚が、
いまのSNS時代・情報過多の時代に合っているのかもしれません
この変化は、
企業を見る目にも表れている!
少ないメニューが支持される背景には、
「この店は何を大事にしているのか」が明確に伝わることがあります。
お客様が見ているのは、
多さではなく、「軸の明確さ」。
全部できます、よりも、「これだけは任せてください」。
その言葉に、人は安心するのかもしれません。
事業者にとってのヒント。
データから見える“整理する勇気”
先ほどの実験や研究から見えてくるのは、
「選択肢が多いと売れない」という単純な話ではありません。
選択肢が増えるほど、人は迷いやすくなり、
「決断のエネルギーを消耗しやすい」という傾向があるということです。
では、事業者はどう考えればよいのでしょうか。
あくまで一つの視点ですが、次のような見直しは検討できるかもしれません。
① 主力を“見えやすく”する
商品点数を減らす必要はないかもしれません。
しかし、HPやSNSなどのトップページや店頭で“何を選んでほしいか”を
明確にすることで、迷いは減る可能性があります。
「まずはこれ!」という導線をつくることは、
選択疲労を軽くする設計と言えるかもしれません。
② 比較の幅を絞る
心理学的には、
3〜5程度の選択肢は即決しやすいゾーンと言われます。
すべてを一覧にするのではなく、
用途別・目的別に整理し、
比較の単位を小さくする方法も考えられます。
③ “やらないこと”を言葉にする
何でもできることは魅力ですが、
軸が見えにくくなる場合もあります。
あえて提供しない領域を示すことが、
専門性の輪郭をはっきりさせることもあるかもしれません。
④ 選択の負担を店側が引き受ける
推奨商品を明示したり、
セット提案を行ったりすることは、
顧客の判断エネルギーを節約する設計とも言えます。
それは、
“売り込み”ではなく、
“迷わせない配慮”とも捉えられるかもしれません。
⑤ 多さを誇らない
選択肢が豊富であることは強みですが、
それを全面に出すかどうかは別の問題です。
生活者が求めているのが
「安心」や「明確さ」であるならば、
見せ方を整理することも一つの選択肢でしょう。
“迷わせない設計”を考える。
それだけでも、「何を大事にしている事業者なのか」が伝わりやすくなり、
その姿が、よりはっきりしてくるはずです。
まとめ
メニューが少ない店が人気なのは、単なる流行ではありません。
それは飲食業に限らず、
無形サービスを提供する企業においても同様です。
たとえば、
「この分野なら任せてほしい」と明確に言える会社。
「この価値だけは磨き続ける」と打ち出せる事業。
商品が“モノ”であれ、“技術”や“知見”であれ、
主体となる価値を絞り込み、磨き続ける姿勢そのものが
信頼の源になります。
多くを並べることではなく、
何を軸にし、何を磨き続けるか。
その一点が明確であれば、
単品であっても、長く選ばれる存在になり得ます。
増やすことが、いつも正解とは限らない。
削ることが、ときに強さになる。
“何を持っているか”よりも、
“何に集中しているか”。
選択肢を減らすことは、顧客を制限することではなく、
迷いを引き受ける覚悟を示すこと。
その覚悟が、一過性ではない、
持続する価値へとつながっていくのかもしれません。

